妊娠中に仕事がつらいと感じたら、限界まで我慢する必要はありません。つわり、眠気、腰痛、息切れなどの症状はもちろん、通勤や長時間勤務、周囲への申し訳なさが負担になることもあります。まずは産婦人科などの医療機関に相談し、必要に応じて上司や人事・労務担当者へ勤務調整を申し出ましょう。
この記事では、妊娠中の仕事がつらいときの相談先、職場への伝え方、具体的な調整例、母性健康管理指導事項連絡カードの使い方、休む場合に確認したい制度まで解説します。体調や職場環境は人によって異なるため、自分に合う対応を選ぶための参考にしてください。
妊娠中の仕事がつらいときは我慢せず相談しよう
仕事を続けることよりも、妊娠中の本人とおなかの赤ちゃんの健康を優先することが大切です。妊娠中の体調は日によって変わりやすく、昨日できたことが今日は難しい場合もあります。つらさを能力や気持ちの問題として抱え込まず、体調に合わせた働き方へ調整できないか相談しましょう。
妊娠初期は、吐き気、食欲不振、強い眠気、頭痛、だるさなどが仕事に影響しやすい時期です。安定期と呼ばれる時期に入っても、必ず症状が軽くなるとは限りません。妊娠中期以降には、腰痛、むくみ、動悸、息切れ、おなかの張り、頻尿などに悩む人もいます。デスクワークでも、同じ姿勢を続けることや混雑した電車での通勤が負担になり得ます。
相談する際は、単に「つらいです」と伝えるだけでなく、「午前中は吐き気が強い」「立ち仕事を30分ほど続けるとおなかが張る」「片道1時間の通勤後に体調が悪化する」など、困っている場面を具体化すると調整につながりやすくなります。
出血、強い腹痛、破水を疑う症状、規則的または強いおなかの張り、激しい頭痛、視界の異常、呼吸の苦しさなどがある場合は、仕事の相談より先に医療機関へ連絡してください。症状が重い、意識がもうろうとするなど緊急性が高いと感じる場合は、救急要請も検討します。受診の要否を自己判断せず、かかりつけの医療機関の指示を受けましょう。
妊娠中に仕事がつらくなる主な原因
妊娠中のつらさは、身体症状だけでなく、仕事内容、通勤環境、人間関係が重なって生じることがあります。原因を分けて整理すると、必要な相談先と具体的な対策が見えやすくなります。
つわりや眠気などの体調変化
吐き気や嘔吐、においへの過敏、眠気、疲労感などは、外見から分かりにくい症状です。「周りも忙しいから」と無理をすると、水分や食事を十分に取れず、さらに体調を崩すことがあります。症状の出やすい時間帯、休憩すると改善するか、飲食できているかを記録しておくと、医師や職場へ説明しやすくなります。
立ち仕事・力仕事・長時間勤務
長時間の立ち作業、重量物の運搬、頻繁な階段移動、夜勤、残業などは、妊娠経過や症状によって負担になる場合があります。接客、医療・介護、保育、製造、物流など、すぐに持ち場を離れにくい仕事では、休憩の取り方や交代要員について早めの調整が必要です。
通勤と職場の心理的負担
満員電車、長距離運転、乗り換えの多さも見落とせない負担です。また、「迷惑をかけたくない」「妊娠を理由に評価を下げられそう」といった不安が相談を遅らせることがあります。体調、業務、通勤、心理面のどこに負担があるかを書き出し、解決しやすい部分から調整しましょう。
最初の相談先は医療機関と職場のどちら?
体調や妊娠経過に不安がある場合は医療機関へ、具体的な勤務変更を求めたい場合は上司や人事・労務担当者へ相談するのが基本です。ただし、どちらか一方だけで完結させる必要はなく、医師の指導をもとに職場へ申し出る流れが有効です。
- 症状が強い場合は、産婦人科などの医療機関へ相談する
- 仕事の内容や勤務時間、通勤方法を医師へ具体的に伝える
- 必要な就業上の配慮について指導を受ける
- 上司、人事・労務担当者、産業医などへ勤務調整を申し出る
- 実施期間を決め、体調を見ながら再調整する
医師には、「仕事を続けてもよいですか」だけでなく、1日の立ち作業時間、休憩の頻度、残業や夜勤の有無、通勤時間などを伝えましょう。実際の働き方が分からなければ、医師も具体的な指導をしにくいためです。
職場では直属の上司が相談窓口になることが多いものの、妊娠を伝えにくい関係であれば、人事・労務担当者、社内相談窓口、産業医、保健師などに先に相談しても構いません。労働組合がある場合は、勤務調整や会社との話し合いについて支援を受けられることもあります。
妊娠の報告時期に一律の正解はありません。ただし、体調不良で欠勤や早退が増えている、安全面の配慮が必要、夜勤や重量物を扱う仕事があるといった場合は、早めに必要な範囲へ伝えたほうが対応を受けやすくなります。
職場へ相談するときの伝え方と準備
職場へは「症状」「仕事への影響」「希望する調整」「希望期間」の4点をセットで伝えましょう。希望だけでなく困っている事実を具体的に示すことで、上司や人事が代替案を考えやすくなります。
相談前には、次の内容をメモにまとめておくと安心です。
- 症状が起こりやすい時間帯と頻度
- 難しい業務と、体調がよければできる業務
- 医師から受けた指導の内容
- 時差出勤、休憩追加、在宅勤務などの希望
- 調整を希望する期間と見直し時期
- 周囲への共有範囲
たとえば、「妊娠に伴う吐き気が朝に強く、通勤中に途中下車することが増えています。医師にも相談しており、まず2週間、始業を1時間遅らせるか在宅勤務を増やせないでしょうか。午後の業務は対応できます」と伝えます。希望が難しい場合に備え、「在宅勤務が難しければ、混雑時間を避ける時差出勤を希望します」と代替案も用意しておくとよいでしょう。
口頭で相談した後は、メールなどで合意内容を残します。勤務時間、対象業務、期間、給与や勤怠の扱い、次回の面談日を確認してください。認識違いを防ぐだけでなく、別の管理者へ引き継ぐ際にも役立ちます。
妊娠に関する情報を誰まで共有するかも確認しましょう。業務調整に必要な関係者への説明は必要になることがありますが、症状や診断内容の詳細を職場全体へ話す必要があるとは限りません。共有してよい範囲を上司や人事とすり合わせてください。
妊娠中に相談できる具体的な仕事調整
仕事の調整は、休職だけではありません。勤務時間、通勤、休憩、業務内容、勤務場所を組み合わせる方法があります。会社の制度や職種によって実現可能な内容は異なりますが、最初から退職しかないと考えずに選択肢を確認しましょう。
勤務時間と通勤の調整
- 始業・終業時刻を変更して混雑を避ける
- フレックスタイム制度を利用する
- 短時間勤務や所定労働時間の変更を相談する
- 残業、深夜業、休日労働の免除を申し出る
- 在宅勤務や出社日数の変更を相談する
制度の有無、利用条件、賃金への影響は就業規則によって異なります。妊産婦から請求があった場合の時間外労働・休日労働・深夜業の制限など、法律上の仕組みが関係する場合もあるため、人事・労務担当者へ確認してください。
休憩と業務内容の調整
- 休憩回数を増やし、横になれる場所を確保する
- 立ち仕事と座り仕事を交互にする
- 重量物の運搬や高所作業を外す
- 外回り、長距離出張、連続した接客を減らす
- におい、高温、寒冷など症状を悪化させる環境を避ける
- 締め切りや担当件数を一時的に調整する
調整は「産休に入るまで固定」とせず、1〜2週間後や次回健診後などに見直す方法もあります。妊娠経過によって必要な配慮は変化するためです。なお、休憩時間や短時間勤務分が有給になるか、賃金控除の対象になるかは、会社の制度と調整方法によって異なります。必ず就業規則と最新の法令・公式情報を確認してください。
母健連絡カードで医師の指導を職場へ伝える
医師から通勤緩和、休憩、勤務時間短縮、作業制限、休業などの指導を受けたときは、母性健康管理指導事項連絡カードを利用できます。一般に「母健連絡カード」と呼ばれ、医師等の指導内容を事業主へ分かりやすく伝えるための書類です。
カードは、厚生労働省のウェブサイトや母子健康手帳などから様式を確認できます。まず診察時に仕事内容と症状を医師へ説明し、必要な指導事項を記入してもらいます。その後、職場の上司や人事・労務担当者へ提出し、具体的な措置を相談します。文書料などが発生するかどうかは医療機関へ確認してください。
職場は、妊娠中または出産後の女性労働者が保健指導や健康診査を受けるために必要な時間を確保できるようにし、医師等の指導を受けた場合には、その指導事項を守るために必要な措置を講じることが求められます。措置の例として、通勤緩和、休憩時間の延長・回数増加、勤務時間短縮、作業の制限、休業などがあります。
母健連絡カードは、病名を証明するための診断書とは目的が異なります。会社独自の様式や診断書を求められる場合もあるため、必要書類と提出先を事前に確認しましょう。ただし、会社独自の手続きだけを理由に必要な母性健康管理措置が進まない場合は、人事や外部窓口へ相談する選択肢があります。
対象となる措置や事業主の義務、様式は法改正などで変わる可能性があります。厚生労働省の母性健康管理に関する最新情報を必ず確認してください。
仕事を休みたいときに確認する制度とお金
勤務調整をしても働くことが難しい場合は、有給休暇、会社の休暇・休職制度、医師の指導による休業などを確認しましょう。休んだ期間の賃金が支払われるとは限らないため、休み方と収入面を同時に確認することが重要です。
年次有給休暇や会社独自の休暇
年次有給休暇が残っていれば、通院や体調不良に利用する方法があります。会社によっては、半日・時間単位の休暇、傷病休暇、妊娠中の特別休暇、積立休暇などを設けています。取得単位や有給・無給の扱いは会社ごとに異なるため、就業規則を確認してください。
休職・欠勤と傷病手当金
医師から療養が必要と判断され、病気やけがのため仕事に就けず、給与が支払われないなどの要件を満たす場合、加入している健康保険から傷病手当金を受けられる可能性があります。妊娠しているだけで自動的に対象になるわけではなく、つわりや切迫流産・切迫早産などによる療養の必要性、労務不能の判断、待期、給与支払いの状況などが審査されます。
支給要件、期間、申請書類、支給額の計算方法は加入先や最新制度によって確認が必要です。勤務先の人事・労務担当者と健康保険の窓口へ問い合わせ、必ず最新の公式情報を確認してください。
産前休業に入る時期
法定の産前休業は、原則として出産予定日の6週間前から本人が請求して取得し、多胎妊娠では期間が異なります。それより前に働けない場合は、産前休業ではなく、有給休暇、欠勤、休職、母性健康管理措置などを組み合わせることがあります。産前産後休業の日程や出産手当金などの条件は個別事情で変わるため、勤務先と加入先の健康保険へ確認してください。
職場が対応してくれない・言い出しにくい場合の相談先
上司に相談しても対応されない場合は、人事・労務担当者、社内相談窓口、労働組合、行政機関へ段階的に相談できます。直属の上司だけで解決しようとせず、記録を残しながら別の窓口につなげましょう。
妊娠、出産、産前産後休業の取得、母性健康管理措置の利用などを理由とする不利益な取り扱いは、法律で禁止されています。また、妊娠・出産などに関する言動によって就業環境が害される、いわゆるマタニティハラスメントについて、事業主には防止措置が求められています。
次のような状況があれば、発言された日時、相手、内容、メール、勤務変更の経緯などを記録しておきましょう。
- 妊娠を報告した直後に退職を迫られた
- 必要な勤務措置を申し出たことを理由に嫌がらせを受けた
- 医師の指導を伝えても、理由を示さず対応を拒まれた
- 妊娠を理由として一方的に不利益な配置や契約変更を示された
- 相談したことを理由に評価を下げると言われた
社内で解決しない場合は、都道府県労働局の雇用環境・均等部または室、総合労働相談コーナーなどへ相談できます。賃金、労働時間、安全衛生などの問題は労働基準監督署が関係する場合もあります。どの窓口か分からなければ、総合労働相談コーナーで相談内容を伝えるとよいでしょう。
ただし、配置変更や雇用契約上の扱いが違法かどうかは、経緯や業務上の必要性などを踏まえた個別判断になります。重要な判断をする前に、公的窓口、労働組合、弁護士などの専門家へ相談してください。
仕事を続けるか休むか迷ったときの判断方法
「まだ出勤できるか」ではなく、「安全に働き続けられる状態か」を基準に判断しましょう。退職を急いで決める前に、医療機関への相談、業務調整、休暇・休職の確認を順番に行うと、選択肢を残しやすくなります。
判断するときは、次の項目を確認してください。
- 水分や食事を無理なく取れているか
- 出勤後や業務中に症状が悪化していないか
- 休憩や睡眠を取っても回復しない状態が続いていないか
- 通勤や作業中の転倒・事故の危険がないか
- 医師から安静、作業制限、休業などを指示されていないか
- 不安、涙、不眠などで日常生活に大きな影響が出ていないか
医師から休業を指導された場合や、安全に業務を行えない場合は、無理に出勤せず職場へ連絡しましょう。一方、勤務時間を短くする、担当業務を一時的に変える、在宅勤務を組み合わせることで続けられるケースもあります。0か100かで考えず、一定期間だけ負担を下げる方法を検討してください。
退職を選ぶと、健康保険、雇用保険、出産に関する給付、育児休業の取得可否などに影響する可能性があります。勢いで退職届を提出せず、在籍したまま利用できる制度、休職中の社会保険料、復職の条件、給付の要件を確認することが大切です。制度の適用は雇用形態、加入状況、退職日などで異なるため、人事・労務担当者、健康保険、ハローワークなどで最新情報を確認してください。
妊娠中の仕事と相談に関するよくある質問
妊娠中の仕事調整では、報告時期、診断書、欠勤、周囲への伝え方について多くの人が悩みます。代表的な疑問を確認しておきましょう。
妊娠初期でも上司に相談してよいですか?
体調や安全面に影響があるなら、妊娠初期でも相談して構いません。全員へ公表する必要はなく、直属の上司や人事など必要な人だけに伝え、情報の共有範囲を限定する方法があります。「まだ周囲への公表は控えたい」とあわせて伝えましょう。
つわりで当日に休むことが増え、申し訳なく感じます
まず医療機関へ症状を相談し、突発的な欠勤を減らせる勤務調整がないか職場と検討してください。始業時刻の変更、在宅勤務、業務量の一時的な調整などが候補です。欠勤時の連絡先や引き継ぎ方法を決めておくと、本人と職場双方の負担を軽減できます。
職場への相談には診断書が必須ですか?
すべての相談で診断書が必須とは限りません。ただし、休職や会社独自の制度を利用する際に提出を求められる場合があります。医師の指導に基づく母性健康管理措置を伝えるには、母健連絡カードも利用できます。必要書類、発行費用、提出期限を会社と医療機関へ確認してください。
パートや契約社員でも勤務調整を相談できますか?
雇用形態だけを理由に、妊産婦に関する法律上の保護がすべて対象外になるわけではありません。一方、会社独自の休暇・休職制度や給付には、勤続期間や社会保険の加入状況などの条件が設けられていることがあります。雇用契約書、就業規則、加入保険を確認し、不明点は人事や公的窓口へ相談しましょう。
つらくても周囲が忙しく、相談を切り出せません
繁忙期でも、健康と安全に関する相談を後回しにする必要はありません。まずメールなどで「妊娠中の体調と勤務について相談したいので、15分ほど時間をいただきたい」と面談を依頼すると切り出しやすくなります。相談後は、決まった内容と見直し日を文書で共有しましょう。
まとめ
妊娠中の仕事がつらいときは、一人で我慢せず、医療機関と職場の両方へ早めに相談することが大切です。症状と仕事への影響を整理し、勤務時間、休憩、通勤、業務内容、勤務場所など、具体的に変更できる点を探しましょう。
医師から就業上の指導を受けた場合は、母健連絡カードを使って職場へ伝える方法があります。勤務調整だけでは難しいときは、有給休暇、会社の休暇・休職制度、傷病手当金の可能性なども確認してください。職場が対応しない、妊娠を理由に不利益な扱いを受けたと感じる場合は、人事・労務担当者、労働組合、都道府県労働局などへ相談できます。
妊娠経過、雇用形態、会社の規定によって利用できる制度は異なります。法律や給付の条件は改正されることもあるため、厚生労働省、加入している健康保険、勤務先などの最新の公式情報を必ず確認してください。





